moonrides おぼえがき「Don’t trust over 30」

Don’t trust over 30

ムーンライダーズを知ったのは小学校の頃。
活動休止期間だったのだが、当時好きだった漫画家の単行本ですすめられていたので、レンタルで聞いてみた。
衝撃だった。

それまではテレビから流れる流行歌、ピアノ教室経由のクラシックしか知らなかったので、洗練された「詩」としかいいようのない歌詞と、多彩なメロディに驚いた。メンバー全員が作詞も作曲も手がける上に、外部から招くこともあるのだから当たり前なのだけれど、同級生が好きだという歌手のアルバムは、曲も歌詞も似通ったものばかりで、数曲聞けば飽きてしまうものだった(それゆえキャッチーで覚えやすく、その味を好むファンには安心感があるから、職人芸として素晴らしいと現在は思っている)にもかかわらず、ムーンライダーズは1曲のうちに2つも3つもサビとして使えそうな耳に残るメロディを使い、転調してくる。
同じ曲の冒頭と、後半部分がまるで別の曲のようで、なのに同じひねくれ方をしている。

こんなに豊かで、掴み所のない、飽きない音楽を作るバンドがあるのか。
夢中になって何度も繰り返し聞いた。
おこづかいを貯めて、アルバムを買った。

「A Frozen girl, A boy in Love」
「ボクハナク」
「だるい人」
「Don’t trust anyone over 30」
これらの曲が特に気に入って、歌詞をノートに書き写しては、詩の美しさと厭世観、恋愛対象との間に必ず分厚いガラスの防壁を作りながら見つめ続ける感覚を味わった。

夕焼けをみると今も「川の向こうに今 燃え尽きた空が落ちる」というフレーズが浮かぶし、冬になると「僕の赤いマフラー 君にまいてあげたいよ」と誰にともなく呟いてしまう。

愛する間はいいけれど、愛されたら逃げるしかない、というややこしい性格の男性への憧れも、この頃に生まれたものだと思う。

「Don’t trust over 30」でムーンライダーズに出会ってしまってから、人生の半分以上、ずっと彼等の音楽を聴いていて、彼等の言葉が心の芯になっている。