「オーケストラ!」 Le Concert

NHK BSで観ました。
しばらくロシア映画を観ていなかったので、なにかロシア語を聞きたいなと思ったときに、偶然番組表で見つけ、最初の10分ほどを見逃してしまったのが残念。

ボリショイ劇場の清掃員にして、アルコール依存症の元天才指揮者。
清掃中に「パリの劇場で演奏する、穴埋めの楽団を探している」というFAXを見つけ、かつて彼とともに演奏していた元楽団員たちを集め、およそ30年ぶりに指揮台に立つ……という出だしはコメディ調。

が、パリに到着するや、ストーリーは大きく動く。

指揮者アンドレイがパリで演奏をやろうとした理由が、30年前の共産党によるユダヤ人排斥に巻き込まれ、途中で中断させられた演目を、再び最後までやりとげたい、という背景。
抜擢した若きバイオリニストの女性、アンヌ=マリーが、「生き別れになった娘では?」と見せかけて……という結末は、音楽の業を感じさせ、深みがありました。
あそこで血縁だと、オーケストラを題材にする意味はないよね。

アンドレイだけでなく、すべての登場人物に「現代から30年」という時間をどう生きてきたかが、さらりと描かれているのも良かった。

ラスト、素晴らしい演奏に重ねられる、アンドレイ楽団の快進撃、あれはアルコール依存症が幻なのか、未来像なのか、はっきりは描かないところも、甘すぎず、いい後味でした。

冒頭を見逃してしまったので、DVDを探そうと思います。

ムーンライダーズ LIVE 2014 “Ciao! Mr. Kashibuchi”

ムーンライダーズ LIVE 2014 “Ciao! Mr. Kashibuchi” 12月17日 日本青年館

行ってきました。中野サンプラザでの休止直前ライブから3年ぶりのムーンライダーズ。
80年代90年代の懐かしい曲を、シンプルなアレンジで、シンプルなステージで。
追悼ライブという形でありながらも、あくまで、いつものムーンライダーズの演奏、演出、MCで。

この、そっけなさに慎重に隠したハートが心地良い。

へたに泣かそうとしてこないところがムーンライダーズだよな、と、嬉しかったです。
慶一さんはいつもどおり輝いてて、日本一格好良かった。

曲ごとに様々な「あの頃」を思い出すつくりの中、照明の使い方が印象に残りました。
「Kのトランク」からはじまる繊細な光の使い方は、もはや光がひとつの楽器です。かっこよかった。しびれた。

バンドの背後から照らす、スモークで煙る光の中、まったくいつものようにふらっと集まって、ふらりと楽しげに演奏するムーンライダーズ。天国のかしぶち哲郎さんへ捧げるライブというより、「天国まで遊びに行って一緒にライブしてきたよ」という風情。ステージ上は異世界でした。照明、すごかった。感動しました。

泣かないで楽しもうと思って行ったのですが、「スプーン一杯のクリスマス」の最初のドラムの入り、あの明るいリズムが胸に染みて、涙ぐんでしまいました。

ムーンライダーズは別れの曲が多いので、妙にしんみりもしつつ。
かしぶちさんがいたら、どんなドラムになったのか、と考えてみたり。「その日の気分とコンディションだから、僕にもわからないよ」と言われるだろうなと想像したり。
特別な夜でした。

トリビュートアルバム、帰宅したら届いていたので、さっそくiPhoneに入れようと思います。

またふらっと、ムーンライダーズライブ、やってほしいな。

moonrides おぼえがき「Don’t trust over 30」

Don’t trust over 30

ムーンライダーズを知ったのは小学校の頃。
活動休止期間だったのだが、当時好きだった漫画家の単行本ですすめられていたので、レンタルで聞いてみた。
衝撃だった。

それまではテレビから流れる流行歌、ピアノ教室経由のクラシックしか知らなかったので、洗練された「詩」としかいいようのない歌詞と、多彩なメロディに驚いた。メンバー全員が作詞も作曲も手がける上に、外部から招くこともあるのだから当たり前なのだけれど、同級生が好きだという歌手のアルバムは、曲も歌詞も似通ったものばかりで、数曲聞けば飽きてしまうものだった(それゆえキャッチーで覚えやすく、その味を好むファンには安心感があるから、職人芸として素晴らしいと現在は思っている)にもかかわらず、ムーンライダーズは1曲のうちに2つも3つもサビとして使えそうな耳に残るメロディを使い、転調してくる。
同じ曲の冒頭と、後半部分がまるで別の曲のようで、なのに同じひねくれ方をしている。

こんなに豊かで、掴み所のない、飽きない音楽を作るバンドがあるのか。
夢中になって何度も繰り返し聞いた。
おこづかいを貯めて、アルバムを買った。

「A Frozen girl, A boy in Love」
「ボクハナク」
「だるい人」
「Don’t trust anyone over 30」
これらの曲が特に気に入って、歌詞をノートに書き写しては、詩の美しさと厭世観、恋愛対象との間に必ず分厚いガラスの防壁を作りながら見つめ続ける感覚を味わった。

夕焼けをみると今も「川の向こうに今 燃え尽きた空が落ちる」というフレーズが浮かぶし、冬になると「僕の赤いマフラー 君にまいてあげたいよ」と誰にともなく呟いてしまう。

愛する間はいいけれど、愛されたら逃げるしかない、というややこしい性格の男性への憧れも、この頃に生まれたものだと思う。

「Don’t trust over 30」でムーンライダーズに出会ってしまってから、人生の半分以上、ずっと彼等の音楽を聴いていて、彼等の言葉が心の芯になっている。